「良い利上げ」と「悪い利上げ」について

利上げにも「質」がある
――いま日本で起きている利上げは、良いのか悪いのか
日本の長期金利が上昇し、日銀の利上げが現実のものとなる中で、
「これから景気は大丈夫なのか」
「金利が上がれば、株や不動産は下がるのではないか」
そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
金利が上がると聞くと、つい
「利上げ=景気が悪くなる」
あるいは
「利上げ=景気が良い証拠」
と、単純に考えてしまいがちです。
しかし実際には、利上げには**明確な「質の違い」**があります。
そして今、日本で行われている利上げがどちらなのかを見誤ると、
投資判断も経営判断も、大きくズレてしまいます。
今日はこの「利上げの質」という視点から、
いまの日本経済を整理してみたいと思います。
「良い利上げ」とは何か
良い利上げとは、ひと言で言えば
「景気が強すぎるため、それを少し冷ます目的で行われる利上げ」です。
経済が順調に成長し、企業収益が伸び、賃金が上がり、消費も活発になる。
需要が供給を上回り、物価が上がりやすくなった局面で、
中央銀行はインフレを抑えるために金利を引き上げます。
これは、スピードが出すぎた車にブレーキを踏むようなものです。
車が壊れているから止めるのではありません。
むしろ、エンジンが元気だからこそ必要な調整です。
1990年代後半のアメリカが典型例でしょう。
IT革命によって経済は活況を呈し、失業率は低下、賃金も上昇しました。
FRBはインフレを警戒し、段階的に利上げを実施しましたが、
これは経済の基礎体力がある中での、比較的健全な利上げでした。
一方、日本の1980年代後半のバブル期では、
利上げのタイミングが遅れ、結果的に大きな調整を招きました。
「良い利上げ」も、遅れれば意味を失うという教訓です。
「悪い利上げ」とは何か
反対に、悪い利上げとは
「景気が弱いにもかかわらず、やむを得ず行われる利上げ」です。
原材料価格の高騰や円安による輸入物価の上昇など、
供給側の要因で物価だけが上がる――
いわゆるコストプッシュ型インフレの局面です。
この場合、利上げはインフレ抑制には効くかもしれませんが、
すでに弱っている景気をさらに冷やしてしまう危険があります。
中央銀行にとっては、極めて苦しい選択です。
数年前までの日本は、
「景気は強くないのに物価だけが上がる」
この悪いインフレに近い状態だと言われてきました。
政策を誤ると、どうなるのか —— トルコの教訓
ここで一つだけ、象徴的な海外例を挙げます。
トルコでは、インフレが進行する中で
「高金利がインフレを生む」という独自理論のもと、
利上げではなく、逆に利下げが行われました。
結果、通貨は暴落し、輸入物価は急騰。
インフレは制御不能となり、国民生活に深刻な打撃を与えました。
この例が示しているのは、
金融政策への信認を失った国が、どれほど脆いかという現実です。
では、日本の利上げは「良い」のか
では、今の日本はどうでしょうか。
日銀は利上げを実施し、政策金利は0%台後半まで引き上げられました。
同時に、10年国債利回りなどの長期金利も上昇しています。
ここで重要なのは、
「日銀が無理に景気を冷やしにいっているのか」
それとも
「経済の回復に合わせて、異常な金融緩和を正常化しているだけなのか」
という点です。
現時点では、市場は後者、
「条件付きで良い利上げに近い」と見ているように感じます。
理由は以下の通りです。
賃上げが複数年続いていること
企業収益が全体として底堅いこと
失業率が低水準で推移していること
もちろん、その恩恵は大企業に偏り、
中小零細企業が厳しい状況にあるのも事実です。
企業・家計負担増が先行すればマイナス影響(景気冷え込み)が懸念されています。
日本経済が「万全」と言える段階ではありません。
政府と日銀の「ねじれ」は問題なのか
政府は財政拡張を志向し、
日銀は金融を引き締め方向へ――
一見すると、矛盾しているように見えます。
しかしこれは、
政府は短期的な景気と生活の下支え、
日銀は中長期の物価安定、
という役割分担と考えることもできます。
問題になるのは、このバランスが崩れたときです。
財政が膨張しすぎれば、長期金利が不安定になり、
市場は一気に厳しい目を向けます。
いまはまさに、
その分かれ目に差しかかっている局面だと言えるでしょう。
金利上昇は、私たちに何をもたらすのか
今後、政策金利が1%台前半まで上がる可能性はあります。
不動産や借入金利への影響は、確実に出てきます。
ただし、冷静に見れば、
この水準は歴史的に見て「高金利」ではありません。
重要なのは、
この利上げが
健全な成長の調整なのか
それとも
無理を隠すための苦肉の策なのか
を見極めることです。
日本は今、長いデフレを経て、
「金利のある世界」に戻りつつあります。
この変化を恐れるのではなく、正しく理解し、
その中でどう動くかを考えることが、これからの資産形成において、何より重要になるはずです。

